高知県に根差しながら、日本の伝統を未来へとつなぐ、あるユニークな企業の挑戦をご紹介します。
荷物を開けたとき、ふわっと木の香りがして、繊細な木の繊維が中身を優しく守っている。そんな経験はありませんか?それが「木毛(もくめん)」という天然の緩衝材です。
この木毛を専門に作り続けるのが、有限会社戸田商行です。プラスチックが主流の現代で、伝統を守り、どのように未来を切り開こうとしているのか、その挑戦を一緒に深掘りしていきましょう!

これがもくめん。繊細なクッションと木の香りが優しく広がります。
高知県土佐市に拠点を置く戸田商行は、昭和36年(1961年)に創業しました。同社が製造するのは、木材を薄く糸状に削り出して作る天然の緩衝材「木毛」です。かつて全国に120社ほど同業者が存在しましたが、安価な化学製品の台頭により次々と姿を消し、今や戸田商行は「日本で唯一の木毛製造専業業者」として孤軍奮闘しています。
しかし、彼らの物語は単なる「存続」の記録ではありません。このニッチ市場の独占企業という立場に安住せず、技術交流や女性の活躍といった新しい力を取り入れ、他社との「共創」を新たな成長エンジンへと転換させようとしているのです。
この記事では、戸田商行が掲げる「伝統と革新」の物語を掘り下げ、多くの中小企業にとって示唆に富んだその軌跡をご紹介します。
戸田商行の挑戦は、3つの相互に関連する戦略的な柱で支えられています。
使命:「最後の一社」として伝統を未来へ繋ぐ
戸田商行の事業の原動力となっているのは、そのユニークな市場での立ち位置から生まれる、非常に強い使命感です。かつて120社以上あった同業者が消えた今、同社が掲げるミッション「日本で最後のもくめんの供給者になる」というもの。単なる「最後」ではなく、この言葉には、ひとつの文化と産業遺産を未来へつなぐという、計り知れない覚悟が凝縮されています。この明確で力強い目的が、事業を支える揺るぎない背骨となっているのです。

木をもくめんにする鋳物でできた削り機。昔から大事に使ってきたこの機械がもくめん作りの要。
こだわり:ゴミを出さない「完全循環型」サステナビリティ
同社の事業は、現代のサステナビリティの考え方を体現しています。創業以来、価格が高くても「高知県産の原木のみを使用」することにこだわり続け、地元の森林活性化に貢献しています。
さらにすごいのは、製造プロセスそのものです。木毛は100%自然素材で作られ、生分解性があり、環境負荷が低い製品ですが、製造過程で必ず出る木の皮や端材を一切ゴミにせず、すべて「木質バイオマス燃料」として再利用しています。この燃料で製品の乾燥を行い、廃棄物を出さない「完全循環型の事業」モデルを確立しているのです。
未来への布石:「共創」を目指す革新と女性の視点
伝統を守るだけでなく、未来への成長のために、戸田商行は革新を続けています。
多くの人が木毛を「緩衝材」だと認識していますが、戸田商行の木毛には、天然木ならではの調湿、抗菌、防カビといった優れた効果が秘められています。この隠れた価値に光を当てたのが、社内の「女性の視点」です。
また、2022年からは、エッセンシャルオイル(精油)抽出事業を「第二の創業」と位置づけ、新しい価値創造に挑戦しています。
インタビュー:戸田商行が描く未来図
戸田商行の哲学やビジョンについて、代表取締役の戸田実知子社長へのインタビューを通じて、さらに深く探ります。

有限会社戸田商行 戸田 実知子社長
インタビュアー: まず、会社の成り立ちについてお伺いします。昭和36年の創業以来、なぜ「木毛」という一つの製品にこだわり続けていらっしゃるのでしょうか。
戸田社長: 当社は木毛の製造販売を専門としてきました。かつては全国に120社ほど同業者がいましたが、安価な化学製品の普及により、今では私たちが日本で唯一の専業業者です。だからこそ、「日本で最後のもくめんの供給者になる」という使命を強く感じています。これは私たちの責任であり、誇りでもあります。
インタビュアー: 日本唯一という立場は、製品へのこだわりにも繋がっているのですね。高知県産材を使い続けること、そして緩衝材という伝統的な用途を超えた新しい価値創造について、どのようにお考えですか?
戸田社長: 創業以来、一貫して高知県産の原木のみを使用し、地元の森林活性化に貢献したいという思いがあります。木毛は単なる緩衝材ではなく、天然木が持つ調湿、抗菌、防カビといった優れた効果があります。この特性を活かし、特に女性の視点から生まれたのが、ヒノキのリラックス効果を活かしたアロマシリーズです。さらに、2022年からはエッセンシャルオイル抽出事業を「第二の創業」と位置づけ、新しい挑戦をしています。

自社で抽出するアロマオイルシリーズは、海外からの問い合わせも入り始めたそう。
インタビュアー: 伝統的な木毛事業の技術をあえて外部の協力企業に見せることに、どのような戦略的意図があるのでしょうか?
戸田社長: 実際に見ていただくことで、「こんなこともできるんですね」と興味を持ってもらうことが、協力関係の第一歩になります。何ができるかを知っていただかなければ、お客様としても「お願いのしようがない」ですからね。まずは私たちの可能性を知っていただくことが大切だと考えています。
インタビュアー: そうした協力関係を今後、より公式な形で強化していくご計画はありますか?また、製品や取り組みを広く知ってもらうためのプロモーション活動についても教えてください。
戸田社長: 理想としては、協力企業の皆さんと成果を披露し合う会を開きたいですね。その上で、皆さんのご意見を伺いながら、年に2回、3回と定期的に開催する必要があるか、じっくり検討していきたいと考えています。また、「売りたい、広めたい」という強い思いがありますので、広報活動も重要です。特に、女性部会で合同ワークショップのようなイベントができたら、楽しみながら私たちの製品を知ってもらう絶好の機会になると期待しています。
戸田商行の物語は、ニッチ市場の独占企業が陥りがちな内向き志向を打ち破り、自社の技術と信頼を基盤に、いかにして「共創」を新たな成長エンジンに変えるかという具体的なロードマップを提示しています。
挑戦の核心にあるのは、日本唯一のメーカーとしての「使命」、高知の自然と共生する「サステナビリティ」、そして他社との「共創」という3つの柱です。
特に注目すべきは、工場見学を通じて技術的な可能性を「見せる」姿勢や、女性部会が主体となって合同ワークショップのような宣伝効果の高いイベントを構想する「広める」ための具体的なアクションです。これは、自社の技術基盤(プラットフォーム)を他社に開放し、新たな価値を創出する「プラットフォーム戦略」への移行を示唆しています。
このすべての取り組みの根底には、「高知に眠る素材を磨き、暮らしに息づく価値を広げ、その本質を『自然の伝え手』として世界に届ける」という戸田商行のビジョンが流れています。最新設備を包み隠さず公開する「見せる」姿勢は、技術力を誇示するためではなく、信頼関係を築くための第一歩なのです。
「最後の一社になる」という孤高の使命感が、革新を生み出し、持続可能な事業モデルを支え、その究極の目標は「笑顔あふれる会社」であること。伝統を守りながら、信頼に基づく新たな繋がりを創造していく戸田商行の未来に、大きな期待が寄せられます。
公式ウェブサイト 有限会社 戸田商行
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